ピーター・シムプル ―書評―

  • 2021年10月25日
  • 2021年10月25日
  • 小説

作品情報

タイトル:ピーター・シムプル
出版社 :岩波書店
作者  :フレデリック・マリアット
公開年 :1834年
ジャンル:イギリス文学・冒険活劇

本作は19世紀イギリスの作家のフレデリック・マリアットによる、ナポレオン戦争時代のイギリス海軍をモチーフとした海洋冒険小説である。

 

作者について

フレデリック・マリアット(1792-1848)はイギリスの首都ロンドンで生まれる。
1806年に士官候補生としてイギリス海軍に入隊、艦長まで昇進したのち1830年に退官。
イギリス海軍退官後は作家として小説を執筆する傍ら、メトロポリタン・マガジンの編集者としても活躍した。
イギリス海軍では身を危険にさらしての人命救助により表彰されるなど勇気と博愛精神あるれた人物である。

 

作品の背景・用語

時代
作者がイギリス海軍に所属した1806年~1830年頃のヨーロッパが舞台。
マリアットの所属するイギリス海軍はヨーロッパを支配するフランス皇帝ナポレオン(1769-1821)との戦争を続けていた。

地域
主人公はイギリス海軍の士官候補生としてポーツマス港から始まり、フランス・西インド諸島・北欧のバルト海と冒険を繰り広げる。

軍艦
ナポレオン戦争時代のヨーロッパでは帆を利用した帆船が主流で、船側に備え付けた大砲で敵船に攻撃を行っていた。
下記に作中に出てくる軍艦の種類について記載する。

・巡洋艦(フリゲート)
3本のマストを持つ中型の帆船。
船足と武装のバランスに優れ、単独任務や艦隊戦の補助など幅広い軍事行動で利用された。
大砲は50門程度搭載まで搭載したものあり、小型の戦列艦に近い攻撃力を備えている。
海洋冒険小説で最も活躍している船種である。

・二檣艦(ブリッグ)
2本のマストを持つ中型の帆船。船足があり操作も容易な船舶である。
速度が速いだけでなく、大砲も20門程度搭載できるため、商船・軍艦・海賊船と幅広く利用されていた。

・ジーベック
ラテンセイルと呼ばれる三角形の帆を持つ、3本マストの中型帆船。
船足は非常に速く、武装も大砲40門程度搭載でき、櫂を利用することで凪(無風状態)でも航行できるところから
私掠船(政府公認の海賊船)や海賊船で利用されていた。

・単檣帆船(カッター)
1本のマストを持つ小型の帆船。湾岸警備などに利用されていた船舶である。
軍艦にはマストを持たず櫂で推進するタイプが搭載され、陸地との輸送や敵船舶への攻撃時に利用された。

・戦列艦
3本のマストを持つ大型の帆船。
大砲を上下2列に並べた2層艦と3列に並べた3層艦があり、
搭載された大砲は50門から最大120門と圧倒できな火力を誇っていた。
2層艦は速度とコストパフォーマンスに優れるも装甲・攻撃力は3層艦より劣っていた。
3層艦の戦闘力は2層艦を圧倒していたが、速度が遅く建造コストが高いため2層艦ほどは造船されなかった。

海軍の階級
下記に作中に出てくる階級について記載する。

・士官候補生(ミジップマン)
将来の士官として教育を受ける若者たち。
10代前半から船に乗り込み、海尉への任官試験に受かることで正式な士官となる。
買い出し・見張り・伝令などの仕事を通して航海に必要な知識を身に着ける。

・海尉(ルテナン)
当時のイギリス海軍では陸軍のような階級制度が確立していないため、
少尉・中尉・大尉の区別がなく、海尉とひとくくりに呼ばれていた。
作中では少尉・大尉となっているが、海尉・海尉艦長の事と思われる。
1つの船に複数名の海尉が配属され、海尉への任官順に1等海尉、2等海尉と呼ばれた。
1等海尉は「副長」とも呼ばれ、艦長不在時は代理として船舶の運航を指揮した。

・海尉艦長(コマンダー)
海軍を統括する海軍省から任命された小型艦の艦長。
主に哨戒や通商破壊、海賊討伐といった単独任務にあたる。
作中では大尉の事と思われる。

・勅命艦長(ポスト・キャプテン)
功績をあげた海尉艦長が国王直々に勅命艦長に任命される。
戦列艦を指揮し、国家レベルでの重要な作戦を遂行することになる。
国王任命のため海軍省では艦長職を解任できず、海尉艦長よりも安定した地位であり、士官たちの最終目標である。

・提督(アドミラル)
艦隊指揮官。将官の総称。
抜群の功績をあげるか、権勢のある家柄の勅命艦長から選ばれる。
提督は退任時に士官候補生、海尉、海尉艦長から1名づつ昇進させる事ができる。

強制徴募
ナポレオン戦争中、募集だけでは兵員に不足をきたしたため、商船の船乗りや町人を強制的に兵員とした。
強制徴募では一家の稼ぎ頭や仕事中の職人など相手の事情を考慮せず狩り集めている。
強制徴募に抵抗する人間もいて、本作でも強制徴募中に主人公が船乗りの細君達に捕まり人質とされている。

グロッグ
ラム酒の水割り。
船員に配給されるラム酒はストレートで配給されていたが、酔っぱらってトラブルを起こすため、水割りで配給したのが始まり。
グロッグの呼び名は水割り配給を決定した提督のあだ名から名付けられた。

 

登場人物紹介

ピーター・シムプル
本作の主人公。
真面目で親切だが世間知らずな少年。
一癖ある人物達と関わり合いながらも少年の頃の善良な性質は失わず、
立派な士官として成長を遂げる。

ターレンス・オブライエン
アイルランド人でピーターの保護者。
自分以外にはだれにもピーターを殴らせないと誓い、ピーターの世話をする。
士官として優秀で、艦長就任して早々に手柄を立てるなど活躍する。

セレステ
フランス人。
フランスで捕虜となったピーターとオブライエンの面倒を見る。
ピーターの看病をしているうちに恋仲となる。

スインバーン舵手
ベテランの船乗り。ピーターを可愛がりグロッグと引き換えにピーターに昔話を語って聞かせる。

チャックス掌帆長
イギリス海軍一の掌帆長。
普段は紳士的な態度をとっているが、怒りがこみ上げると暴言を吐きながら藤蔓の杖で相手を叩きのめす。
フランスの戦艦を襲撃中に負傷、フランス軍につかまり消息不明となる。

サヴィジ艦長
ピーターが初めに乗り込んだ船の艦長。
非常に優秀でまじめな性格の持ち主。ピーターの世間知らずさを危うんでいたが、
彼の真面目な勤務態度から信頼を置くようになる。

ファルコン副長
サヴィジ艦長の船の副船長。
みんながピーターのことを世間知らずと評価する中、利口な少年と評価していた。
士官や水兵に罰を与えるとき、罰を受けた本人以外は楽しめる刑罰を与える事がある。

ブリヴィリッジ子爵
ピーターの祖父。大金持ちだが爵位の継承しか頭になく、性格の悪い息子(ピーターの叔父)に利用される。

カーネイ艦長
親切で気立てが良く、勇敢で冷静だか、大ぼら吹きな艦長。
ブリヴィリッジ子爵の血縁者との大ぼらを吹き、ブリヴィリッジ子爵の孫ピーターを親戚として大切に扱う。
自分は大ぼらを吹くが他人のほら話には厳しく、副船長のほら話をとがめる事がある。

ホーキンス艦長
ピーターが最後に乗り込んだ船の艦長。
ピーターに含むことがあり、いろいろな意地悪をする。
貴族の私生児でコネで出世したため、艦長としての評判は芳しくない。

 

あらすじ

14歳のピーターは一族の大馬鹿者として海軍に入隊。
世間知らずなところからトラブルを引き起こすも、真面目な性格からくる真摯な態度でトラブルを乗り切りながら成長を遂げる。
フランス軍の捕虜となったときは一緒に捕まったオブライエンと協力してイギリスに脱出する。
フランスから脱出後は風変わりな艦長達のもとで経験を積み海尉となる。
祖父のブリヴィリッジ子爵死後、爵位を継いだ叔父の陰謀で苦境に陥るも仲間達に助けられ無事脱出、
叔父の悪事を暴き大団円を迎える。

 

読んだ感想

世間知らずのピーターと一癖ある人達が繰り広げる事件は読んで楽しくなる。
敵役以外は愉快な登場人物が多く、しっかりとした個性と相まって親しみを感じる。
作者は元海軍士官だけあり航海や戦闘の描写は読み手に雰囲気をよく伝えている。
欠点は日本語訳の出版の関係で旧字体の文章で読みづらく、海洋冒険小説ならではの用語もあり読むのが困難に感じる。

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